2019年 | デンマーク | 83分
お腹の⼦をあきらめ養⼦に出すか、⾃らの⼿で育てるかー。決断を迫られる若き韓国⼈⼥性3⼈を追った、⽣々しくも⼼揺さぶられるドキュメンタリー。未婚の⺟親への社会的偏⾒が根強く残る韓国社会を映し出す。韓国人の母親の元に生まれるも、デンマークの里親に養⼦として育てられた監督が、母親を探して⺟⼦施設を訪れるところから物語は始まる。
『忘れな草〜ママはあなたを抱けなかった〜』ストーリー
「どうしてママは私を手放したの?」 これは、監督スン・ヒー・エンゲルストフトが本映画を撮る理由となった胸に刺さる悲痛な問いかけだ。この映画『忘れな草』には、未婚で妊娠した3人の韓国人女性が世間から隠れ出産するまでの、彼女たちを取り巻く状況と心の葛藤が描かれている。
韓国チェジュ島にある未婚の母のためのシェルターで女性たちは暮らしている。この島の美しい景色とは対照的に、彼女たちはここで辛いジレンマを経験する。これから生まれてくるわが子を自分で育てられるのか、それとも養子に出すのか。
エンゲルストフト監督は養子に出された自身の過去を追って、未婚の母のためのシェルターを運営するイム氏と出会った。イム氏は強い意志を持ってシェルターに身を寄せる未婚の母たちを支えるが、世間の目と伝統を重んじる家族の事情に難しい決断を迫られる。本作品で監督は、自らの母を知らない悲しみ、若い未婚の母たちが抱く子供への感情、彼女たちに突き付けられる社会的立場を繊細に伝え、女性の自己決定権の尊重を問いかけている。
監督スン・ヒー・エンゲルストフトが語る
韓国、済州島の田園地帯にあるシェルターで暮らす3人の未婚の母親を追った映画『忘れな草〜ママはあなたを抱けなかった〜』ーー彼女たちは、生まれてくる赤ん坊を自分の手で育てるか、養子縁組をして手放すかの選択を迫られている。私は、朝鮮戦争以降の国際養子縁組でヨーロッパの先進国にもらわれていった20万人の韓国人養子の一人だ。私はデンマークの田舎で家族の愛情を受けて育った。二十歳になって初めて韓国へ渡り生みの親を探したが、結局、母は見つからなかった。
どうしても理解できないことがあった。なぜ、母親が子どもを手放して養子に出さなければならないのだろう。考えれば考えるほど、分からなくなる。
その答えを知りたくて、以来、何度も韓国を訪れた。私は、母と同じようなジレンマに直面する女性たちのことを知り、会いに行くようになった。養子縁組がどのように決まるのか、どうしても知りたかったのだ。始まりはそんな自分探しの旅だったが、物語が深まるにつれて、女性や子供を取り巻く社会の状況、特に女性が結婚や親族関係、セクシュアリティにおける社会の通念から逸れたとき、彼女たちが背負う重圧が明らかになっていった。
2013年、韓国には未婚の母親を支援するシェルターが50カ所以上あった。シェルターは、女性が妊娠を隠したまま出産するまで、世間の目から身を隠す場所。ここに来る女性は赤ちゃんを自分で育てることを望んでいない人がほとんどだ。そんな状況の中で、シェルター「エスウォン」の創立者兼所長、イム氏と出会えたことは非常に画期的だった。
イム氏は、女性たちに自分で子供を育てる選択について考える時間を与えてくれる人だった。「エスウォン」の考えは、周りの社会とは全く違って対照的だ。そして、ここで暮らす女性たちと生まれて間もなく養子に出された私が、初めて会ったときからお互いの人生に思いを巡らし感情的に結ばれることを、イム氏は分かっていたのだ。
こうして「エスウォン」に受け入れられた私に、女性たちは人生で最もつらい時を過ごしながらも心配事や夢について語ってくれた。
映画を撮ることで、私を養子に出した母の事情の輪郭を知ることができた。だが、これは私の母だけのことではない。国際養子縁組は、家族の保護という基本的人権を侵害する大きな社会問題から生じた結果だ。この映画『忘れな草』に登場する母親たちは、貧困のため子供を手放すのではなく、未婚の母親への根強い社会的偏見のため子供を手放さざるを得ないのだ。



